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紫色の月光

紫色の月光

第九話「ゲーム」

第九話「ゲーム」


<メサイア基地>


 ギロンを倒した快斗達は次のエリアへと進む。しかし、快斗はギロンとの戦いで既にボロ雑巾状態だった。余りにも出血が激しすぎてまともに歩けない状態にまでなっていたのである。ぶっちゃけ、生きているのが不思議な状態だ。

「全く、何故そこまで無茶をするのであるか?」

 彼の横でサルファーが言う。

「決まってんだろ」

 すると、彼はさも当然のように言った。

「奴はゼッペルを侮辱した。その罪は万死に値する」

 真顔で凄まじい事を言ってくれた。しかも冗談じゃ無いんだから凄い。

「しかし、その傷はいかに貴様が再生能力の持ち主であろうと簡単には治るまい」

 すると、リディアは相変わらずの鋭い目つきで言った。しかしその言葉は全く持ってそのとおりだった。
 何しろ、背中を思いっきり斬られたのだ。これで生きているのだからこの男の生命力は常識を覆している。

「……おい、忘れたとは言わせないぞ」

「何が?」

「お前がゼッペルを殺した事だ」

 場を沈黙が支配した。何かギスギスした空気が場に満ちている。

「確かに、昔の事だと言えばそうだ。そしてお前が暴走していたと言う事実も。だが、それでもお前があいつを殺したと言う事実は変わらない」

 呆気なく息を引き取ったゼッペルの姿を思い出しつつ、快斗は言葉を続けた。それは、しかし、とから始まる。

「俺がお前を殺したと言う事実もまた、変わらないんだ」


 ○


<メサイア基地 Bブロック>


 薄暗い場所だな、とマーティオは思った。洋画で出てくるゲーセンとかこんな感じである。そしてそれを裏付けるかのように格闘ゲームのコントロールレバーがついている席が二つある。

「これは……何なんですか?」

 夜夢が言うと、マーティオは恐ろしく無表情な顔で答えた。

「どーせゲーセンだろーよ。暇つぶしの」

「それにしては席が少ないような……」

 其処まで言いかけた瞬間、突然床から轟音が響いた。機械的な音を響かせながら床は開いていき、その中から三つの機動兵器がひょっこりと姿を現す。

「!」

 そしてその中の一つにマーティオは見覚えがあった。
 ノーズルドタウンでビルを木っ端微塵にしたあの大型銃である。

 それ等は次々と分解していっては一つへと集まっていく。俗に言う合体と言う奴だ。

「あれま」

 あまり感動が無いマーティオの言い方だが、それでも横の三姉妹は唖然としていた。何せ、三つの機動兵器があっさりと、まるでマグネットバルキリオンみたいに変形したからだ。

「誰があんなの設計したんだオイ」

 此処でそういうツッコミなのか、とその場にいる三姉妹は思った。

「キメラを作り上げたビリオム博士だ」

 すると、何処からか男の声が響いてきた。よく見ると、合体した巨大兵器の頭の上に乗っかっている。

「オイテメェ! 何をマシンロボの登場シーンみたいな登場の仕方をしてやがる!」

 全員が「ずだーん」と激しい音を立てながらコケた。
 しかし、言葉を発したマーティオは良く見てみるとその男の姿を知っていた。

「確か……マルコだったな」

「出鼻を挫かれた気分だが……そのとおりだドクター・イオ」

 マルコは立ち上がると、床に立つ四人を氷の様な冷たい目で見下した。

「此処から先に進みたいのならこのレインボージーンナンバー7、マルコとこのナンバー5のテンペストを倒す事だな!」


 ○


<R・J社本社>


 ガレッドとトリガーは目の下に隈をでかしていた。何せ一日中快斗達の機体、更には今出撃中のヴァリス達のRMAの整備を手伝わされているから仕方が無い。
 だが、そんな彼等やR・J社の整備ロボ、更には佐奈すらお手上げの機体があった。

 事もあろうか一番損傷の激しい快斗のダーインスレイヴ・ダークネスである。コレが何故お手上げなのかと言うと、機体のエンジン、更には装甲に何を使われているのかさえ全く分らないのである。

「よくよく考えればこの機体って、リーダーが邪眼で完成させた機体なんですよねー」

 眠そうな顔でガレッドが言う。

「と、言う事は……?」

 その横で佐奈も眠そうな顔で作業の確認をしている。ガレッドの言葉に耳を傾けながらやっている辺りプロだ。

「邪眼の持ち主であるリーダーがどうにかしないと修復もクソも無いでしょう。多分、本人も分らなかったんじゃないかと。ダーインスレイヴが壊れるのなんて今回が初めてでしたし」

「そういう事はもっと早く言ってください! この4時間無駄になったじゃ無いですか!」

 佐奈が怒鳴った。その理不尽な怒りをそのまま受けたガレッドは睡魔に襲われつつも耳をキーン、とさせた。こう言う事の担当はやはり彼なのである。

「ところで」

 其処に、トリガーが目をこすりながら割り込んできた。

「緊急出撃です。フェイ、ヨルム、ミズチのRMAを早いところ送って来いこのクソ! とのことです」

「随分と口が悪いな。誰からだ一体?」

「噂の本拠地へと向かったマーティオさんからです。どうやらこの三人と行動を共にしているようですね。そんな訳だからガレッド。テレポート宜しく」


 ○


<メサイア基地 Dブロック>


「……音がするな」

 リディアの一言に全員が頷いた。奥に行けば行くほど喧しいノイズが耳に響いてくる。金属音ががんがん唸っているようだ。

「……行き止まり?」

 辿り着いた場所は先ほどギロンがいた場所と同じだった。ただ、決定的に違う事が一つあった。

「……どうやら団体さんのようで」

 天井や床、更には壁一面に『虫』が群がっているのである。虫嫌いには色々と堪らない光景だ。

「そーいやノーズルドタウンで機械の虫がいたな。こいつ等アレの仲間か」

 そう考えると何処かにこいつ等を作り出している『巣』があるはずだ。
 もしくは作り出した元となる何か、だ。どちらにしろこの恐ろしい量の虫をどうにかしないと先に進めないだろう。何しろ、出口が虫で埋まっている。

「――――――」

 此処で、耳障りなノイズが頭上で大音量で鳴り響いた。鼓膜が破れるかのような勢いである。

「な、なんであるか!?」

 サルファーが見上げると、其処には見るからにグロテスクな巨大虫がいた。透明で巨大な羽が何やら汚い色の粉を撒き散らしながら卵を産んでいる光景は思わず嘔吐しそうである。

「あれが一番の原因か」

 つまり、アレを倒さないと先には進めないだろう、と言う事だ。ただ、問題があるとしたら虫がうじゃうじゃと群がっては数を増やしている事だ。
 こちらで戦える状態なのはサルファーとネオンだけで、快斗は重傷で休んでいないといけないし、リディアは戦闘出来るタイプではない。

「おい、サルファー」

 いざ、と思い切ってボスの虫に切りかかろうとしたサルファーだが、後ろから快斗に呼び止められる。

「なんであるか?」

「ああ、こいつを持っていけ。奴等への切り札だ」

「何と! それは一体!?」

 流石に切り札、というだけあってサルファーの反応は素早い。

「殺虫剤だ。ネオン、サルファーのおでこにでも貼り付けておけ」

「……りょーかい」

「いや、なんでそうなるのであるか!?」

 因みに、今の彼はRMA状態である。巨大虫と戦うには丁度いいデカさだ。


 ○


<メサイア基地 Bブロック>


 マーティオは唖然としていた。先ほどトリガーとガレッドが三姉妹のRMAを持ってきたと思ったらそれが合体してしまったのである。
 
 がしゃん、と言う金属音と共にそれは覚醒した。胴体がフェイ、右半身が夜夢、左半身が瑞知と言う構成のそれの名は、

「フェェェェェェイザリオオオオオオオオオオン!!!!」

 此処でマーティオは思った。
 名前叫ぶ意味ってあるのか、と。

 だがそんな事を言ってしまったら世の中のスーパーロボットを全部否定する事になってしまいかねないので、敢えて流しておいた。

「さて、これで条件は同じだ。マルコにテンペスト」

 マーティオが不気味に笑いながら言う。しかし、マルコは動じない。

「確かに、機体の合体数は同じだが……果たしてゲームに勝てるかな?」

「ゲーム?」

 マーティオとフェイザリオンが揃って疑問の声を発した。

「そう、ゲームだ」

 マルコがぱちん、と指で音を鳴らすと同時、フェイザリオンとテンペストの各部に黒いリングが装着される。

「こ、これは!?」

 フェイザリオンメインの意識であるフェイが困惑の声を出すと、マルコはそれに答えた。

「何、これでお前もテンペストも自分の意思じゃ動けないってことさ。動く方法はただ一つ」

 此処まで言った直後、マーティオは理解した。

「成る程、あのゲーセンのコントロールバーで戦う、と」

 道理で二つしかないはずだ。一人が操作をし、もう一人が戦う役をするわけである。

「そう言う事だ。だが、ただのゲームじゃ詰まらん。賭けをするぜ」

「賭け?」

「そうだ。俺はこの部屋を抜ける為の鍵を賭ける。だからお前もそれに合うだけの物を賭けないといけないのだ」

 ふむ、と頷いてからマーティオは考える。
 ただ、フェイザリオンは物凄く不安になった。この男が何を考えるかさっぱり分らないからである。そもそも付き合いがあまり無いから仕方が無い。

「OK、それじゃあこっちは―――――」

 マーティオが賭ける物を決定したようだ。

「このフェイザリオンの三人の命だ」

『ちょっとぉ!』

 止めろこの馬鹿野郎、とでも言わんばかりの勢いでフェイザリオンがマーティオに怒鳴る。

「何だ、この俺様の決定に何か文句でもあるのか?」

『大有りです!!』

 そりゃそうだ。何せ、勝手に自分の命を賭ける大馬鹿がいるから怒鳴らずにはいられない。いや、本来なら蹴り倒したい所だ。

「何を言う。他に何も無いのだ。仕方があるまい?」

『だからって勝手に他人の命を賭けないで下さい!』

「黙れ。要は勝ちゃーいいんだ。俺様は負ける気なんて微生物の大きさほども無いぜ」

 何だその変な例え。

「まあ、兎に角だ。こっちは三人分の命を賭けるってことなんだから」

 マーティオは不気味な笑みを浮かべながら言った。

「そっちも三人分の命と釣り合う物を賭けてもらわなくっちゃーねぇ?」

 心なしか、ドス黒いオーラがマーティオから溢れ出ているような気がする。と言うか、この男完全に神経がどうかしている。

「まさか、鍵だけで済ませるなんて思っちゃいねぇだろうなぁ?」

 イカレてる。フェイザリオンはそう思った。これからそんなイカレた男にコントロールされるんだと思うとぞっとする。

「何なら俺様の命も入れてやろう。そしてそうだな。貴様等が賭けるべき物は……やっぱ貴様等全員の命しかないよなぁ?」

 つまり、こう言っているのだ。
 このゲームに負けた奴は問答無用で死ぬのだ、と。

「文句は、言わせないぜ?」

 ゲームマスターであるマルコに対して何も言わせないその迫力は何ともいえない恐ろしさがあった。

「ゲームの時間だ」


 ○


<アフリカ 巨大卵の前>


 R・J社社長のロディスと副社長のヴェイダはこの大自然溢れるアフリカの土地に来ていた。

 尚、彼等は此処で何をしているのかと言うと、彼等なりに動物の動きを監察しているわけである。今後の機体についてのヒントを自分達の目で見ておきたい、と言う事だ。
 無論、そんなのただの建前で本当の目的はこの馬鹿でかい巨大卵だ。

「……こう見て見たらデカイなぁ」

 興味心から近づいてきた物の、この卵の中から放たれている異様なオーラは何ともいえない。一言で言えば、何かざらざらとした嫌な感覚が五感を通して伝わってくるのだ。

 しかし、そんな卵を見ては目を離さないのが周りの皆から『叔父さん』と呼ばれているヴェイダである。

「………何を考えてるんだ?」

「ん? ……何、目玉焼きにするべきかご飯にかけるべきかスクランブルにするべきか迷ってな」

「多分腹壊すと思うから止めておけ」

 と言うか、本当に食べかねないから恐い。
 すると、そんな時だ。

 その噂の卵にひびが入った。


 ○


<メサイア基地 Bブロック>


 フェイザリオンは剣を振りながら思った。マーティオってなんと言うスピードでゲームをしてるんだ、と。
 先ほどからコントロールバーでフェイザリオンを操作するマーティオの手のスピードは最早高速と言うよりは『神速』だった。もうバーだけがガチャガチャ言って五月蝿いのである。どれだけ遊び人暦が長いのかはっきりしている。

 だが、しかし。その分フェイザリオンの斬撃スピードも恐ろしい物となっていた。
 次々とテンペストの胴体、頭、腕、足を狙って神速のスピードで一撃を与えようとする。

 しかし、テンペストもそれに合わせて防御する。と、言う事はマルコも凄まじいスピードで斬撃を防いでいると言う事になる。

(うわぁ……)

 剣を出しておいてなんだが、恐ろしく速い。しかも一度も防御に回ろうとしないのだ。

(超攻撃的な人ですねぇ……)

 しかし、次の瞬間、テンペストの刃がフェイザリオンの顔面目掛けて槍のように飛んでくる。

「ちぃ!」

 舌打ちをすると同時、マーティオはコーディネイターも真っ青の速さで操作をする。すると同時、フェイザリオンが空中で1回転。左足を突き出して刃を防いだ。しかし、その突き刺さった刃の跡が痛々しい。 
 どうやらマーティオはどんな手段を使っても勝ちたいらしい。

「歯ぁ、食いしばれ! こいつで死んじまえええええええええええええ!!!!」

 マーティオの眼に狂気と言う名の炎が宿る。
 そのヤバイ眼に寒気を感じつつもフェイザリオンはテンペストの腹部に剣を思いっきり突き刺した。それはテンペストをまるで豆腐のように貫通させ、そのまま床に叩きつける勢いで力を入れる。

「!?」

 しかし次の瞬間、テンペストがその刃をしっかりと掴んだ。しかも全然放そうとしない。腹部に直撃を受けている状態で一体何をしようと言うのか。

「やろぉ! 自爆する気だな!」

 マーティオがぎろり、とマルコを睨む。

「今頃気付いても遅い。テンペストはそのフェイザリオンを巻き込んで自爆する!」

「わりぃが俺様は他人の思い通りになるのが嫌いでな」

 すると、マーティオがコントロールバーを乱暴に操作する。

「分離しろ、フェイザリオン!」

 すると、フェイザリオンの意思に関係なく彼女達は分離した。それと同時、テンペストは突き刺さったままの剣を掴んだまま、宙に浮く。

「どぉん」

 マーティオがそういったと同時、テンペストが轟音を響かせながら爆発した。その爆風が巻き起こる中、マーティオは爆発のショックで気絶しているマルコに近づく。

「さて、賭けだが……約束どおり、鍵貰うぜ」

 マーティオはマルコの胸ポケットの中から銀の鍵を取り出す。
 だが、それだけでは終わらなかった。

「そしてもう一つ……くくく」

 実はこの男、興奮すると快斗やエリック曰く、『殺戮症』と言うトンでもない症状が発動する。イライラしたり、何か興奮すると無性に血が見たくて仕方がなくなるという恐ろしい症状だ。しかも他人のじゃ無いと気が済まないから洒落にならない。

「はははははははははははっ!!」

 もう眼が正気じゃなかった。
 彼はナイフをぺろ、と舐めながらゆっくりとマルコへと振り上げた。


 ○


<メサイア基地 Bブロック>


「何処に行ったんですかね、あの人」

 分離したはいいが、爆風でマーティオとマルコを見失ってしまったフェイ達は辺りを見回す。

「ところで、あのマルコって人どうなったんですかね?」

 ヨルムが言う。確かにマーティオの行方が分らないと共にマルコの行方もわからない。
 と、そんな時だ。

「よ、どうした。先に進むぞ」

 マーティオが三姉妹の前に姿をあらわした。

「あ、マーティオさん。探したんです――――!!!!?」

 その姿は恐るべき物だった。
 なんと言っても全身血まみれで、しかもその血が床にポトポトと落ちている。不気味と言うか、恐ろしい事この上なかった。

「あ、あの……何をしていたので?」

 大体の見当はつくが、それでも聞かずに入られなかった。

「あ? 賭けの内容は負けたほうの命と鍵……それを頂いてきただけだぜ」

 マーティオはさも当たり前のように言ってきた。だが、こんな姿になるまで何をしていたと言うのだろうか。恐ろしすぎて聞けやしない。

「あーあ、ナイフ一本使いモンにならなくなっちまった。早いトコ直さないとな、このクセ」



第十話「人間失格」


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